CREATE.書き物01
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「〜海〜」

 満天の星空の下、彼と彼女は手を繋いで砂浜に座っている。都会の雑踏も喧騒も無く、ただ波の音だけが二人を包んでいた。
 今この時が二人にとって、何ものにも代え難い幸せな瞬間だった。時間も何も考えない、ただ、手と手の温もりだけを感じる。それだけで今の二人には幸せだった。
 しかし、これが二人にとって最後の時でもあった。この時間が終われば、二人はもう会う事ができない。それでも二人は、今だけを感じ、そして二人だけの幸せを実感していた。
 満天の星空だけが、彼と彼女を見守っている。そして目の前の暗い海だけが、彼と彼女の真実を知っていた。

 静けさの中にカモメのせつなげな声が聞こえ始めていた。満天の星は少しずつ消え、薄紫に色づく空と海が二人を包みだしていた。
 彼と彼女の時間に終わりが近づいていた。二人はそれを知っている。でも何も言わず手を握り、ただ目の前の薄紫に色づく海を眺め、そして波の音だけを聞いていた。
 一滴の涙が彼女のほほを濡らした。黙って彼はその涙を指で拭う。彼女のほほの温もりと涙の冷たさを指先で感じながら、彼は立ち上がった。彼女もそれに従い立ち上がる。
 薄紫の空はやがて青空に変わり、彼女の髪を、青い海からの風が寂しげになびかせていた。

 彼女は一人砂浜に立ち、青い海を眺めていた。静けさの中に小さく響くカモメのせつない鳴き声が妙に愛おしかった。彼女のほほの涙を拭う彼の手はもうここにはない。涙はいつまでも彼女のほほをつたっていた。

 彼女にとって初めての彼のいない夏が・・・・もうそこまで来ていた。

                                       おしまい

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